「プロダクトマネジメント ービルドトラップを避け顧客に価値を届ける」を読みました。

はじめに

こんにちは、kuroです。唐突ですが、「プロダクトマネジメント ービルドトラップを避け顧客に価値を届ける」の発売を記念した株式会社アトラクタさんの書籍プレゼント企画に応募して当選しました!本記事は同書の感想記事になります。Amazonほしい物リストには元々入っていたので手元の積読本が片付いてから…と思っていたところ、運良く当選し、またブログ記事を書くきっかけにもなって一石二鳥です。

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普段からスクラム開発でPO(プロダクトオーナー)のロールを担うこともありますし、開発している製品の企画活動にも携わっているため、プロダクトマネージメントという領域には以前から関心を持っていました。プロダクトマネージメントという言葉を初めて知ったのは記憶が正しければ「ソフトウェア・ファースト」だったと思います。

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マネージャーと言えばプロジェクトマネージャーや組織の役職のことだと思って生きてきた自分に取って、プロダクトマネージャーというプロダクトに対するマネーメント職があるんだということがとても新鮮でした。

書籍の構成

本書の目次は以下のとおりです。価値交換システムという見慣れない言葉から始まります。

  • 1章 価値交換システム
  • 2章 価値交換システムの制約
  • 3章 プロジェクト / プロダクト / サービス
  • 4章 プロダクト主導組織
  • 5章 私たちが知っていること、知らないこと
  • 6章 悪いプロダクトマネージャーの典型
  • 7章 優れたプロダクトマネージャー
  • 8章 プロダクトマネージャーのキャリアパス
  • 9章 チームを構成する
  • 10章 戦略とは何か?
  • 11章 戦略のギャップ
  • 12章 良い戦略フレームワークを作る
  • 13章 企業レベルでのビジョンと戦略的意図
  • 14章 プロダクトビジョンとポートフォリオ
  • 15章 プロダクトのカタ
  • 16章 方向性の理解と成功指標の設定
  • 17章 問題の探索
  • 18章 ソリューションの探索
  • 19章 ソリューションの構築と最適化
  • 20章 アウトカムに着目したコミュニケーション
  • 21章 報酬とインセンティブ
  • 22章 安全と学習
  • 23章 予算編成
  • 24章 顧客中心主義
  • 25章 マーケットリー:プロダクト主導企業
  • おわりに:ビルドトラップから抜け出してプロダクト主導になる

本書では、機能を作ること(アウトプット)ばかりにフォーカスしてしまうことを「ビルドトラップ」と呼び、ビルドトラップを避け真の価値と成果(アウトカム)を届ける方法についてマーケットリーという架空のオンラインスクール企業のストーリーを元に解説しています。*1 原著のタイトルは「Escaping the Build Trap: How Effective Product Management Creates Real Value」です。

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本書の内容と読んで考えたこと

価値交換システム

価値を誤解すると、企業はビルドトラップにはまります。ビジネスや顧客のために創造したいアウトカムと価値を結び付ける代わりに、作ったものの数で価値を計測してしまうのです。

そもそも価値とは何か?というところから本書は始まります。顧客が価値を認めるのは、自身の問題が解決したり要望が満たされたときだけであり、このときだけ顧客はビジネス側に価値を返してくれます。至極当然の話ですが、実際のところ自分たちのプロダクトのどこに価値を感じてくれているか、どれだけの問題を解決しているかをしっかりと繰り返し安定的に把握している企業は少ないんじゃないかと思います。自分のプロダクトはまさにそこが出来ておりません…

プロダクトのリリースの成功はどのように評価されているでしょうか?前回よりも多くの機能をリリース出来た、計画どおりにリリース出来た、計画と比べてコストオーバーしなかった、リリース後の不具合が少なかった、といった観点が多いんじゃないでしょうか?そこには顧客が不在となっています。顧客のためにリリースしているはずなのに。

チームはたくさん作ることで評価されています。方針は、チームにたくさんのコードを書かせたり、たくさんの機能をリリースしたりするように仕向けるために存在していて、顧客と話すといった労力は無駄だと見なされています。

プロダクトは価値を運ぶもの です。顧客優先とか顧客視点で、という方針を経営層が宣言することも多いですが、プロダクトをリリースした後の顧客評価の計測が足りていないケースが自分自身の場合は多いです。個人の意識やスキルではなく、組織として何を計測して評価しフィードバックするかというシステムに課題があるんだなと気づかされました。

プロダクトマネージャーの役割

プロダクトマネージャーの役割について、悪い典型例や優れたプロダクトマネージャーの説明を元に解説されています。 自身の解釈ですが、良いプロダクトマネージャーの素養を簡単にまとめると以下のような感じかなと。

  • 御用聞きではなく、自身の戦略・ビジョンを持つ。
  • 全員に対して謙虚な姿勢を保ち、耳を傾ける。
  • 専門的な情報、実験で得られたデータ、分析結果を重要視する。
  • 「いつ」作るかではなく「なぜ」作るかに答えられる。

特に参考文献にはなっていませんが、「WHYから始めよ!」を思い出しました。 なぜこのプロジェクトをするのか?成功とはどのようなものか?等々、いつでもなぜに立ち止まって考えることが大事です。なぜに答えられるだけのビジョンやデータを持ちつつ、他人の声にも耳を傾けながらプロダクトの方向を示していくリーダーがプロダクトマネージャーなんだなと理解しました。

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ちなみにスクラムにおけるプロダクトオーナー(PO)とプロダクトマネージャーとの違いについて、POはあくまでスクラムチームの中のロールに過ぎず、プロダクトマネージメントの一部に過ぎないと解説されています。顧客と切り離されてなぜ作るのかを考える時間もなくユーザーストーリーを書くことばかりしているPOはビルドトラップに嵌まっています。自分もこうならないように注意しないといけない…

プロダクトマネージメントの戦略

本書では、戦略について"いつまでにどれだけの機能をリリースするかといったいう計画"のことではないと喝破しています。 スティーブン・バンギーの「The Art of Action」を引用し、以下のように説明しています。

戦略とは実行可能な意思決定のフレームワークであり、現在のコンテキストとの整合性を保ちながら、現在の能力の制約のもとで、望ましいアウトカムを達成するための行動を可能にするものである。

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優れた戦略であれば、何年にもわたって維持できるものであるべき、と語っています。 経営戦略の分野で有名な、経営理念(ミッション)-ビジョン-戦略-戦術、の4階層で言えば、戦術(計画)ではなく、ミッションとビジョンに基づいた戦略を考えるのが優れたプロダクトマネージメントということだと理解しました。

ティーブン・バンギーの研究からの引用としては他にも

  • 知識のギャップ

    • 知りたいと思っていることと、実際に知っていることとの差
  • アラインメントのギャップ

    • 人にやってほしいことと、人が実際にしていることとの差
  • 効果のギャップ

    • 行動によって達成を期待することと、実際に達成したこととの差

の3つのギャップが組織内に摩擦を引き起こすと説明しています。普段の仕事でも思い当たる節がいくつもあります。これらのギャップを埋めるようなチームまたは個人の行動を可能にするために、優れた戦略フレームワークが必要となるということです。

プロダクトのカタ

ソフトウェア界隈はトヨタが本当に好きですね。本書では、トヨタで実践されている継続的改善の基本である"カイゼンのカタ"を参考に、作るべき適切なソリューションを明らからにするプロセスとして、"プロダクトのカタ"を定めています。プロダクトのカタでは以下の4つのフェーズを繰り返します。

  1. 方向性を理解する。
  2. 現状を分析する。
  3. 次の目標を設定する。
  4. プロダクトプロセスのステップを選択する。(問題・ソリューションの探索と最適化)
  5. (1に戻る)

各フェーズはそれほど突飛なものではないと思いますが、武道のようにこのカタを繰り返し実践して習慣化することで、プロダクトのカイゼンが自然に行えるようになるというところがポイントだと理解しました。本書では各フェーズの実行方法について、架空のストーリーも交えながら具体的な方法論を示しています。海賊指標、HEARTフレームワーク、検査的調査/生成的調査、学習のための実験、コンシェルジュオズの魔法使い、コンセプトテスト、Black Swan Farming等々、UXやリーン・スタートアップ関連の知識を広く、またプロダクトマネージメントという文脈の中で、学ぶことが出来ました。

役割、戦略、プロセス、組織の力学

筆者まえがきに記載がありますが、ビルドトラップにはまってしまうのはプロダクトマネージャーだけでなく、組織全体です。 そのため、チームのプロセスを解決するだけでは不十分であり、良いプロダクトマネージメントをサポートするような組織に変えていく必要があります。*2

本書は、役割、戦略、プロセス、組織の力学が、企業が提供する価値にどれだけ影響を与えるかについて私が学んだことの集大成です。

本書の構成は、実は以下のような5部構成となっています。第Ⅰ部でビルドトラップについて説明した後は、役割、戦略、プロセス、組織の順に展開する流れとなります。組織の中にプロセスがあり、プロセスを元に戦略を考え、戦略を実行するための役割がある、という構造を元に全体がデザインされています。プロダクトマネージメントについて予算編成やインセンティブといった組織レベルの話をここまで具体的に書いてある書籍は中々無いのではと思いました。

  • 第Ⅰ部 ビルドトラップ
    • 1章 価値交換システム
    • 2章 価値交換システムの制約
    • 3章 プロジェクト / プロダクト / サービス
    • 4章 プロダクト主導組織
    • 5章 私たちが知っていること、知らないこと
  • 第Ⅱ部 プロダクトマネージャーの役割
    • 6章 悪いプロダクトマネージャーの典型
    • 7章 優れたプロダクトマネージャー
    • 8章 プロダクトマネージャーのキャリアパス
    • 9章 チームを構成する
  • 第Ⅲ部 戦略
    • 10章 戦略とは何か?
    • 11章 戦略のギャップ
    • 12章 良い戦略フレームワークを作る
    • 13章 企業レベルでのビジョンと戦略的意図
    • 14章 プロダクトビジョンとポートフォリオ
  • 第四部 プロダクトマネジメントプロセス
    • 15章 プロダクトのカタ
    • 16章 方向性の理解と成功指標の設定
    • 17章 問題の探索
    • 18章 ソリューションの探索
    • 19章 ソリューションの構築と最適化
  • 第Ⅴ部 プロダクト主導組織
    • 20章 アウトカムに着目したコミュニケーション
    • 21章 報酬とインセンティブ
    • 22章 安全と学習
    • 23章 予算編成
    • 24章 顧客中心主義
    • 25章 マーケットリー:プロダクト主導企業

付録も面白い

付録には、企業がプロダクト主導かどうかを判断する6つの質問が記載されています。

  • 最後に作った機能やプロダクトのアイデアを思いついたのは誰ですか?
  • 最後に廃止を決めたプロダクトは何ですか?
  • 顧客と最後に話をしたのはいつですか?
  • 目標は何ですか?
  • 現在何に取り組んでいますか?
  • プロダクトマネージャーはどんな人ですか?

プロダクト主導に出来ているか?ビルドトラップに嵌まっていないか?を考えるためのきっかけになりうるでしょう!

おわりに

書籍タイトルからプロダクトマネジメントに携わっている方に向けた本のように誤解するかもしれませんが、アウトプットばかりに集中せず真の価値を顧客に届けるという考え方は、プロダクトに関わる全ての役職の方が理解しておきたい内容だなと思いました。 プロダクト主導とはどういうことか?なぜプロダクト主導だと良いのか?を学ぶために、とても有用な書籍です。面白かった!

*1:架空のと言いつつも筆者が働いた企業やプロダクトマネージャーとして経験したことを元にしています。筆者は実際にProduct Instituteというオンラインスクールも設立しています。

*2:スクラムマスターは組織のカイゼンにもアプローチするという話と似ているところがありますね。